KEY TAKEAWAYS
この記事でわかること
- 企画書は会社が伝えたいことと、読者が解決したいことを接続する文書です。
- 章立てより先に、対象読者・使う場面・根拠資料・制作範囲を決めます。
- 承認条件と未確認事項を分けると、制作開始後の判断が揃います。
- 読者を絞る誰が何に困っているか
- 材料を照合事例・数字・説明を確認
- 範囲を合意納品物と判断者を決める
企業出版の打ち合わせで「会社の強みを本にしたい」と伝えても、編集者はすぐに章立てを決められません。同じ強みでも、初めて相談する人に伝えるのか、取引先の担当者が社内説明に使うのかによって、必要な内容が変わるからです。最初に用意したいのは、完成形を飾る提案書よりも、関係者の判断を揃える短い編集企画書です。
この記事では、企画を1枚に整理するための項目と記入例を紹介します。ここで示す表は本記事の実務用の整理案であり、出版業界共通の指定様式ではありません。費用や部数を決める前に、何を作るための見積もりなのかを明確にすることが目的です。
最初に書くのは会社紹介ではなく読者の困りごと
読者像は「経営者」「管理職」のような属性だけで終わらせず、何を決めようとしている人かまで具体化します。たとえば「新しい設備の導入を検討しているが、比較すべき条件を整理できていない担当者」なら、製品の歴史よりも比較項目や検討手順を先に知りたいはずです。
読者の立場と、困っている場面を一つに絞る
読後に理解・判断できることを言葉にする
取材・事例・資料・図版の根拠を用意する
制作担当・配布場面・振り返り方を決める
POINT企画書の空欄は、制作を始める前に確かめる課題。
企画設計の整理図。本文の記入例と合わせて使ってください。
GOV.UKの利用者ニーズの案内は、利用者が何をしたいのか、なぜ必要なのかを調べ、記述する考え方を示しています。行政サービス向けの方法を参考に、本の企画でも「読む場面」と「読後にできること」を分けて書くと、内容の優先順位を検討しやすくなります。
読者の困りごとを推測だけで確定しないことも大切です。問い合わせで繰り返される質問、商談で説明に時間がかかる点、担当者が持ち帰って確認する項目を集めます。記録には対象期間と件数を添え、少数の例を市場全体の傾向として扱わないようにします。
1枚の企画書に入れる8つの項目
| 項目 | 書くこと | 仮の記入例 |
|---|---|---|
| 対象読者 | 役割と置かれた状況 | 初めて設備更新を任された担当者 |
| 読む場面 | 判断が必要になる時点 | 候補企業へ相談する前 |
| 読者の課題 | できずに困っていること | 比較条件を社内で揃えられない |
| 読後の行動 | 本を使ってできること | 確認項目の一覧を作る |
| 独自の材料 | 説明を支える経験や資料 | 公開可能な検討例と確認表 |
| 扱わない範囲 | 期待を持たせない領域 | 個別案件の適合判断や価格保証 |
| 制作物 | 形式と受け渡すデータ | 本文原稿、図表、紙版用データ |
| 判断者 | 内容と公開を承認する役割 | 専門確認担当と公開承認者 |
この例は架空の設備導入ガイドです。実際には事業分野に合わせて置き換えます。各欄を埋めるために情報を作るのではなく、確認できていない欄には「未確認」と書き、担当者と確認期限を付けてください。空欄の所在が分かる企画書の方が、根拠のない断言で埋まった企画書より制作に役立ちます。
会社の目的と読者の成果を別々に置く
会社側の目的は、営業時の説明を揃えること、採用候補者へ仕事を伝えること、専門知識を引き継ぐことなどです。一方、読者側の成果は、比較できる、質問を準備できる、手順を実行できるといった変化です。二つを同じ欄に書くと、読者への説明が途中から会社への問い合わせ依頼に置き換わることがあります。
たとえば会社の目的が「相談の前提知識を揃える」なら、本では基本用語、判断条件、相談時に準備する資料までを扱います。読者が本だけで解ける課題は本の中で完結させ、個別判断が必要な領域では条件と相談先を示します。すべての章を販売への誘導で閉じる必要はありません。
Googleのコンテンツ作成の案内も、想定する読者に役立つ内容かを点検する考え方を示しています。これは本の販売成果を保証する基準ではありませんが、Web展開も予定する企画で、読者にとっての価値を確認する参考になります。
章立ては読者の判断順に並べる
企画書から章立てへ進むときは、部門やサービスの一覧をそのまま章にしないようにします。「前提を知る」「選択肢を比べる」「条件を確認する」「実行する」「見直す」のように、読者が次の判断へ進める順序で仮に並べます。そのうえで、各章を読んだ後に答えられる問いを一つ書きます。
問いが「当社の特徴は何か」ばかりなら、読者の作業に結びつく形へ見直します。「導入前に何を確認するか」「比較条件が違う見積もりをどう揃えるか」のような問いに変えると、必要な図表や事例も具体的になります。会社の沿革や理念は、その問いを理解する助けになる位置へ置きます。
各章に資料があるかも同時に点検します。根拠がない章を先に増やすと、取材や調査の負担が見積もれません。「資料あり」「取材が必要」「外部情報を確認」「扱わない」の四つに分け、企画時点で未確定の作業を見えるようにします。
制作範囲を成果物で合意する
「編集一式」「出版支援」のような言葉だけでは、含まれる作業を比較しにくくなります。取材、構成、執筆、校正、図表制作、表紙、組版、電子版変換など、必要な工程を分けて書きます。企業出版の目的と制作範囲を整理したうえで、どの工程を社内で担当し、どこを外部へ依頼するかを決めましょう。
- 原稿の材料を誰が集め、どの状態で渡すか。
- 専門的な内容を誰が確認し、質問へ回答するか。
- 図表は新規に作るのか、既存資料を整えるのか。
- 納品後に更新するための元データを受け取るか。
- 確認回数、追加変更、納期変更をどのように扱うか。
ページ数だけで制作量を判断しないことも重要です。同じ分量でも、既存原稿を整える作業と、複数人への取材から構成する作業では必要な工程が違います。分量は仮置きとして示し、内容の密度や図表の量と合わせて見積もり条件にします。
承認条件は好みではなく確認できる状態にする
「分かりやすく仕上がったら承認」という条件では、人によって判断が変わります。対象読者が用語を理解できる、主要な数字の根拠を追える、掲載事例の確認が終わっている、予定する形式で読める、といった確認可能な項目に分けます。表現の好みは表記方針として別に決めます。
企画を途中で変える可能性も前提にします。新しい読者層を追加する、章を増やす、紙版に加えて電子版も作る、といった変更は、本文だけでなく図表、確認者、費用、日程へ影響します。変更理由と影響範囲を記録し、誰が採用を決めるかを企画書に添えておきます。
会議での決定は、賛成の発言だけで判断しないようにします。「この読者を主対象にする」「この事例は確認後に掲載する」「この章は次の企画へ回す」と決定事項を書き分け、保留条件を残します。制作担当者が会議に出ていなくても、次に何をすればよいか読める状態が目安です。
企画案が複数あるときは同じ条件で比較する
営業向けの解説書と採用向けの紹介冊子など、目的が異なる案をページ数だけで比べることはできません。それぞれについて、使う人、使う場面、用意できる材料、制作後の運用担当を同じ欄で整理します。完成後に使う場面が決まっていない案は、制作の前に配布や更新の担当を確認します。
たとえば、問い合わせへの回答を整理する案は既存の質問記録を使える一方、社員の仕事を紹介する案には取材や写真の準備が必要かもしれません。どちらが優れているかではなく、今の目的と準備状況に合うかを判断します。根拠が足りない案を無理に進めず、先に小さな記事や説明資料で内容を確かめる選択肢も残してください。
比較の結果は、採用案だけでなく見送った理由も短く残します。後から別の担当者が同じ案を持ち込んだとき、条件が変わったのか、まだ同じ課題があるのかを確認できます。企画書は一度の承認を得る書類としてだけでなく、制作中に判断を見直す基準として使います。
公開後に使う場所まで決めて着手する
最後に、誰がどの場面で本を渡すか、Webでどの部分を紹介するか、訂正窓口をどこへ置くかを記入します。出版後の活用計画まで決めておけば、巻末の案内や関連ページを制作途中から準備できます。配布した冊数だけで目的達成とせず、利用場面に合う確認方法を選びましょう。
企画書の完成は、すべてが確定した状態ではありません。決まったことと、確認が必要なことを関係者が同じように理解できる状態です。まず一つの読者課題を選び、必要な材料と担当を揃えたうえで、取材や原稿づくりへ進めてください。
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情報確認日:2026-10-24

