Kindle出版で収益を上げる方法は、単純に「本を販売する」だけではありません。
実は、多くのベストセラー作家がその収益の大きな柱としている、もう一つの重要な仕組みがあります。それが、月額制の読み放題サービス「Kindle Unlimited」です。
読者にとっては、月額980円で対象の書籍が読み放題になる、非常にお得なこのサービス。では、著者にとってはどのような意味を持つのでしょうか?
「読み放題で読まれたら、購入してもらえないから損なのでは?」「一体、印税はどうやって計算されるの?」
そんな疑問を抱く方も少なくないでしょう。しかし、Kindle Unlimitedの収益構造を正しく理解し、戦略的に活用することこそが、Kindle出版で安定した収益を築くための鍵となります。
Kindle Unlimitedの収益モデルは、従来の「1冊売れたらいくら」という単純なものではありません。それは、「読者があなたの本を読んだページ数」に応じて、1ページあたり約0.4~0.5円の印税(KENPロイヤリティ)が支払われるという、ユニークな仕組みです。
つまり、たとえ購入には至らなくても、読者があなたの本に興味を持ち、ページを読み進めてくれるだけで、あなたには収益が発生するのです。これは、これまで収益化が難しかった「立ち読み」が、そのままお金になるようなものだと考えることができます。
本記事では、このKindle Unlimitedの収益構造の核心である「KDPセレクト」と「KENPロイヤリティ」の仕組みを徹底的に解剖し、あなたの本の収益を最大化するための具体的な戦略を、株式会社イーリサパブリッシングの実績データに基づき解説します。
Kindle Unlimitedで収益を得るための必須条件「KDPセレクト」とは?
まず大前提として、あなたの本をKindle Unlimitedの対象にし、読まれたページ数に応じた収益を得るためには、その本を「KDPセレクト」に登録する必要があります。
KDPセレクトの仕組み
KDPセレクトとは、あなたの本をAmazon(Kindleストア)で90日間独占的に販売することを約束する代わりに、様々な販促ツールや収益機会を得られるプログラムです。
- 独占販売契約:KDPセレクトに登録した本は、その90日間、楽天KoboやApple Booksなど、他の電子書籍ストアで販売することはできません。ブログやウェブサイトで全文を無料公開することも禁止されます。
- 自動更新:90日の登録期間が終了すると、自動で次の90日間も登録が更新されます。独占販売を解除したい場合は、手動で自動更新をオフにする必要があります。
この「独占販売」という条件に抵抗を感じるかもしれませんが、それを補って余りあるメリットがKDPセレクトには存在します。
KDPセレクトに登録するメリット
- Kindle Unlimitedの対象になる(KENPロイヤリティ)
これが最大のメリットです。あなたの本がKindle Unlimitedの会員に読まれたページ数に応じて、後述する「KENPロイヤリティ」が支払われます。 - 70%のロイヤリティオプション
通常、Kindle本の印税率は、価格が250円~1,250円の範囲であれば70%、それ以外は35%です。しかし、KDPセレクトに登録することで、この価格範囲の制約が緩和され、より柔軟な価格設定で70%のロイヤリティを得やすくなります。(※一部対象外の国・地域あり) - 無料キャンペーンの実施
90日の登録期間ごとに最大5日間、あなたの本を無料で提供できるキャンペーンを実施できます。これは、発売初期にランキングをブーストさせたり、新刊の認知度を拡大したりするための強力な販促ツールです。 - Kindle Countdown Dealsの実施
期間限定で、段階的に割引価格を設定できるセール機能です。カウントダウン形式で希少性を煽り、購入を促進することができます。
KDPセレクトのデメリット
唯一にして最大のデメリットは、前述の通り「販路がAmazonに限定される」ことです。もしあなたが、他のプラットフォームにも多くのファンを抱えており、マルチプラットフォームで展開したいと考えているのであれば、KDPセレクトへの登録は慎重に検討する必要があります。
しかし、日本の電子書籍市場におけるAmazonの圧倒的なシェアを考えれば、ほとんどの著者にとって、販路をAmazonに集中させるデメリットよりも、KDPセレクトのメリットの方がはるかに大きいと言えるでしょう。
1ページ約0.5円?「KENPロイヤリティ」の計算方法
では、Kindle Unlimitedで読まれたページ数に応じてもらえる印税、「KENP(Kindle Edition Normalized Pages)ロイヤリティ」は、具体的にどのように計算されるのでしょうか。
KENPの計算式
あなたのKENPロイヤリティは、以下の計算式で決まります。
あなたのKENPロイヤリティ = (KDPセレクトグローバル基金) × (あなたの本の総既読ページ数 ÷ 全参加作品の総既読ページ数)
少し複雑に見えますが、要点は以下の通りです。
- KDPセレクトグローバル基金:Amazonが毎月、Kindle Unlimitedの著者への支払いのために用意する、全世界の資金プールです。この総額は毎月変動します。
- ページ単価の変動:上記の計算式の結果、1ページあたりの単価(KENPレート)が毎月算出されます。この単価は、ここ数年、おおむね1ページあたり0.4円~0.5円の間で推移しています。
- KENPC(Kindle Edition Normalized Page Count):あなたの本の「正規化されたページ数」です。読者の端末設定(文字サイズなど)に左右されないよう、Amazonが標準のフォーマットで計算した、あなたの本の総ページ数を指します。これは、KDPの本棚で確認できます。
例えば、あなたの本のKENPCが300ページで、その月に合計10,000ページ読まれたとします。その月のページ単価が0.45円だった場合、あなたのKENPロイヤリティは 10,000ページ × 0.45円 = 4,500円 となります。
KENP収益を最大化する3つの戦略
この仕組みを理解した上で、KENPによる収益を最大化するためには、どのような戦略が有効なのでしょうか。
戦略1:「読了率」を極限まで高める
KENP収益の鍵は、いかにして読者に「最後まで読んでもらうか」にかかっています。どんなに多くの人にダウンロードされても、最初の数ページで離脱されてしまっては、収益は伸びません。
- 魅力的な導入部:「はじめに」や最初の章で、読者の心を鷲掴みにし、「この先を読まずにはいられない」と思わせる工夫が必要です。問題提起、衝撃的な事実、読者が得られる未来などを具体的に提示しましょう。
- 飽きさせない構成:適度な改行、箇条書き、図解、小見出しなどを活用し、テンポよく読み進められるように工夫します。長文が続く場合は、途中に短いまとめを入れるなども効果的です。
- ストーリーテリング:単なる情報の羅列ではなく、読者が感情移入できるようなストーリー仕立てにすることで、読了率は劇的に向上します。
戦略2:本の「ボリューム(ページ数)」を最適化する
ページ単価で収益が決まるため、ある程度のページ数(ボリューム)がなければ、大きな収益には繋がりにくいのは事実です。しかし、単に文字数を増やして無駄にページ数を引き延ばすのは逆効果です。内容が薄まれば読了率が下がり、結果的に収益も下がってしまいます。
- 最適なボリューム:ジャンルにもよりますが、一般的に2万~4万文字(KENPCで150~300ページ程度)が、読者がストレスなく読了でき、かつ著者も十分な収益を得られる、バランスの取れたボリュームと言えるでしょう。
戦略3:シリーズ化で「まとめ読み」を促進する
面白いシリーズ作品を見つけた時、次々と続きを読んでしまうのが読者心理です。「入門編」「実践編」「応用編」のようにテーマを分けたシリーズや、連作の小説などを出版することで、一人の読者に複数の本を「まとめ読み」してもらうことができます。
- これにより、一人の読者から得られる総既読ページ数が飛躍的に増加し、収益の安定化と最大化に繋がります。
ケーススタディ:KENP収益で月10万円を達成したDさんの戦略
- 著者: Dさん
- ジャンル: 自己啓発・習慣術
- 状況: 単発で3冊の本を出版していたが、KENP収益は月1万円程度だった。
収益最大化戦略
- シリーズ化の導入: 「朝活」「時間術」「目標設定」という3つのテーマを、「人生を変える習慣術シリーズ」として再構成。それぞれの本の巻末で、シリーズの他作品へ明確に誘導するリンクを設置。
- 読了率の改善: 各書籍の導入部分を、読者の悩みに深く共感するストーリー形式に全面改稿。「この本は、まさに自分のための本だ!」と思わせる工夫を凝らした。
- ボリュームの最適化: 最もページ数が少なかった「朝活」の本に、具体的な実践テクニックや失敗談の章を追加し、他の2冊と同程度のボリューム(約250ページ)に調整。
- 新刊の投入: シリーズ4作目として「コミュニケーション術」を出版。既存のシリーズ読者がこぞって新刊を読んだため、発売初月から大きなKENP収益を獲得。
結果:
- シリーズの「まとめ読み」が発生し、一人の読者あたりの既読ページ数が平均3倍以上に増加。
- 読了率が改善したことで、各書籍の既読ページ数も1.5倍に。
- 相乗効果により、4ヶ月後にはKENPロイヤリティだけで月間10万円を超える安定収入を達成した。
よくある失敗と落とし穴
失敗1:ページ数を稼ぐために、無意味な内容で水増しする
状況: 「ページ数が多い方が儲かる」と考え、画像や改行を多用したり、同じ内容を繰り返したりして、意図的にページ数を引き延ばす。
問題点: 読者は内容の薄さや冗長さに気づき、すぐに読むのをやめてしまう。結果として読了率が著しく低下し、KENP収益はむしろ減少する。低評価レビューの原因にもなる。
対策: ページ数は、あくまで読者にとって価値のあるコンテンツを提供した「結果」であるべき。読者満足度と読了率を最優先に考える。
失敗2:KDPセレクトの独占販売義務を破ってしまう
状況: KDPセレクトに登録していることを忘れ、自分のブログで本の内容を全文公開したり、他の電子書籍ストアで販売してしまったりする。
問題点: Amazonの規約違反となり、アカウントの停止といった厳しいペナルティを受けるリスクがある。一度失った信頼を回復するのは非常に困難。
対策: KDPセレクトに登録した書籍は、登録期間が終了するまで、Kindleストア以外では公開・販売しないことを徹底する。登録期間はKDPの本棚で確認できる。
よくある質問(FAQ)
Q1. ページ単価(KENPレート)は、どこで確認できますか?
A. 過去のページ単価は、KDPレポートの「過去のレポート」ページで確認することができます。毎月中旬ごろに、前月分のレポートが確定し、その月のページ単価が公表されます。この単価は毎月変動するため、定期的にチェックする習慣をつけると良いでしょう。
Q2. 写真やイラストが多い本の場合、ページ数はどう計算されますか?
A. Amazonの「正規化されたページ数(KENPC)」は、テキストだけでなく、画像や図表なども含めて、標準的なフォーマットに基づいて計算されます。そのため、写真集やイラスト集、図解が多いビジネス書なども、その内容に応じて適切にページ数が計算され、KENPロイヤリティの対象となります。ただし、あまりにテキストが少ないと、1ページあたりの情報量が少ないと判断され、見た目のページ数よりもKENPCが少なくなる傾向があります。
Q3. KDPセレクトの登録をやめたい場合は、どうすればいいですか?
A. KDPの本棚から、対象の書籍の「…」(アクション)ボタンをクリックし、「KDPセレクト情報」を選択します。ページ内に「KDPセレクトへの登録を自動更新する」というチェックボックスがあるので、そのチェックを外します。これにより、現在の90日間の登録期間が終了した時点で、自動的にKDPセレクトから登録が解除され、他のストアでの販売が可能になります。登録期間の途中で解除することはできないので注意が必要です。
まとめ:Kindle Unlimitedを制する者が、Kindle出版を制す
Kindle Unlimitedは、もはや単なる「販促ツール」ではありません。それは、購入という高いハードルを越えなくても、あなたのコンテンツの価値を直接収益に変えることができる、極めて重要な「収益の柱」です。
- KDPセレクトに登録し、読まれたページを収益に変える。
- 読者を惹きつけ、最後まで読ませる「読了率」こそが命。
- 最適なボリュームとシリーズ化で、収益を最大化する。
これからのKindle作家は、「いかにして売るか」と同時に、「いかにして最後まで読んでもらうか」を追求する必要があります。読者の可処分時間を奪い合うこの時代において、読者を惹きつけ続ける魅力的なコンテンツを作ることこそが、Kindle Unlimited時代の成功法則なのです。

